ヌシの話
小学2年生くらいの頃。
お金持ちの友だちがいたのだけれど、
その人の家の隣が、最初空き地だった。
誰かの土地だったのか、まだ買い手がつかなかったのか分からないけれど、雑草はえ放題だった。
よくそこに入って遊んでいた。
冬に雪が積もれば、そこで雪だるまを作ったり、雪合戦をしたりした。
そんな風に、気軽に入れる場所だった。別に立ち入り禁止ではないし、お金持ちの親もいけないとか言わなかった。昔は管理地とかいう看板なんて無かった。
初夏の頃、お金持ちの友だちと、その他の友だちと一緒に、その空き地で冒険ごっこをしていた。
そうしたら、お金持ちの友だちが叫び声を上げた。草むらの中だった。
ガラスか何かを踏んで、怪我でもしたのかな?と思って居たが、違った。
その友だちが足下を指さして、「おいこれスゲェぞ!!」と叫んでいる。
指の先を見ると、黄緑色で、直径50cmくらいの小岩があった。
いや、小岩ではない。そのサイズのカエルだった。
草むらの中でじっとしていて、冒険ごっこをしていた僕たちはそれまで全く気づかなかったんだ。
その巨大なカエルは、じっとこちらを見たまま動かなかった。
「スゲエよこれ!!!デッケェエ!」
皆で興奮した。
お金持ちの友だちの親に言うと、
「へえ。そんなのいたんだ。」
とあっさりした反応。信じていなかったのかもしれない。
「捕まえたい。」
と話すと、とても大きなナイロン袋(今で言う、コンビニとかで売っている大きい方のゴミ袋くらいのサイズ)をくれた。
でも、誰が持ち帰る?という話になった。真っ先に僕が立候補した。
「皆ほしがるだろうな。ジャンケンかな。ジャンケン僕弱いしな。」
と思いつつ名乗り出たが、友だちは皆「絶対親に飼っちゃダメって言われるし。」と諦めていたので、すんなり僕が持ち帰ることになった。
サンタクロースみたいに、巨大なカエルを入れた袋を担いで、頑張って自分のアパートに帰った。カエルは意外にもおとなしく袋に入って動かなかった。
アパートの自分の部屋の、玄関のドアを開けると、家にいた母親が驚きの声を上げた。
「アンタなにそれ!?」
「◯◯ちゃんの家の隣で捕まえた。」
「馬鹿!!!今すぐ返して来なさい!それは多分ヌシだよ!!!罰が当たる前にすぐ返すよ!お母さんが手伝ってやるから!!!」
母親が言うには、それだけの大きさにまでなった生き物は、その土地のヌシである事が多い。その場所の守り神かもしれないから、すぐに戻せと言うことだ。
夕暮れの中、二人で空き地まで袋を持って歩いた。
「あーあー、ピカード。このカエルいっぱいオシッコしてるな。」
と母親が袋を僕がよく見えるように持ち上げた。巨大カエルの、真っ白い腹がよく見えたのを覚えている。確かに袋の中は、黄色というか、黄緑みたいな液体が一杯だった。
空き地に着くと、カエルを草むらの中へ戻した。びょん、びょん…とのんびりカエルは草むらの見えない所へと入っていった。
すぐカエルは見えなくなった。
翌日も、翌々日も、その空き地に友だちと行った。
「あのカエルいないかな。」
と、探したが、もう二度と見つからなかった。
不思議だった。
だって、そこの空き地の廻りは全部家が建っていて、もろ住宅街だったのだから。
本当にヌシだったのかもしれないな。